レボリューション・イン・ザ・バレー ―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏

アンディ・ハーツフェルド。マックの開発者の一人。彼が開発当時の出来事、いろんな同僚のエピソード、そしてスティーブ・ジョブスの横暴(笑)などを紹介している書籍。当時の写真もふんだんに掲載されているので、それだけ眺めていても楽しい一冊。

QuickDrawを作ったビル・アトキンソンは有名だが、それ以外の開発者となるとなかなか知られていない。生みの親と言われるJeff Raskin、途中から仕切ったご存じスティーブ・ジョブス、などの名前は出てくるかもしれないが、プログラマとなると...。

アンディの名前を有名にしたのは「QuickerGraf」ではないだろうか。System 6の時代のカラーになったマックの画面に、クラッシックカーが起動画面に表示されていたのを覚えている人はいるだろうか?あれはアンディがアップルをやめた後に書いたINITである。自分もそれで彼の存在を知り、初期開発者だと教えられたぐらいしか知識はなかった。

この本を読めば、まさにMacintoshという奇跡の製品の細部に神を宿らせた本人だということがわかる。デスクアクセサリ、プリンタドライバ、ファインダのコンセプト。同僚の開発者から信頼された中心メンバといっても過言ではないだろう。

もう一つ。最近あがめられる存在となっているスティーブ・ジョブスの若かりしころが描かれているのもとても興味深い。立派なスピーチをした彼は、昔こんなやんちゃでわがままな傍若無人な人間だったわけだ。アンディもそれほど好印象では書いていない。泣かされたこと(ホントに泣かされたらしい)こともある。そんな彼が、Macintoshの生みの親はだれか?という問いに対して、Jeff Raskinではなく、Steve Jobsだろうと言っているのが素敵だ。Steveが居なければ存在しなかった製品なのは間違いない。

一つエピソード。あのラウンドレクトが発明された日の話が載っている。ラウンドレクトとは角丸の四角形のことだ。あれって当時のUIには存在していなかったものだそうだ。そもそも円を描画するのがそれほど速くなかったので、四角形の描画を遅くするラウンドレクトをUIに使うなどという考えも皆の頭にはなかったんだろう。そんなある日、天才ビルアトキンソンが円(楕円)の高速描画ルーチンを開発することが出来た。意気揚々と自慢しに来てみんなにデモしている場にジョブスが来るなり開口一番「ラウンドレクトは描けないの?」と。ビルもふてくされる。ジョブス引き下がるどころか説得(ごり押し)にかかる。という訳で当時誰も使っていなかった角丸四角形がUIに登場することになったと言うことだ。ジョブスが居なければ、マックはおろか角丸四角形はコンピュータの画面にいなかったのかもしれない。

ちなみに。同じ開発者として言うと、ビルに対するこのジョブスの行動はひどすぎる。見てもらいたいモノに一言も触れずに別のことは出来ないの?と言われることほど腹立たしいことはない。プログラマがなんかでもしていたら、とりあえずはほめておいた方がベターだ。

話を戻そう。この書籍のもう一つの売り、カラーで残っている初期のマッキントッシュの写真、基盤、当時のスタッフのプライベートの風景、若かりし日のゲイツアーケードゲーム。ファインダーの開発に1ヶ月しか取ってないスケジュール表の写真(笑)。QuickDrawの成長過程をポラロイドで撮っていたというビルアトキンソンの一連の写真も貴重な資料だろう。その後写真家になったビルの初期の作品と言うことになる。

暑い夏に読むにはぴったりの、熱い内容の本。20代の若かりしころを思いつつ読んで欲しい。


QuickerGrafに関する記述
http://books.google.co.jp/books?...

商品名
レボリューション・イン・ザ・バレー ―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏
価格
\3,570
著者
Andy Hertzfeld
出版社
オライリージャパン
発売日
2005-09-26
URL
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4873112451/kanshin-1-22/ref=nosim